ここにしかない「産土/土着性」は酒づくりそのものとなる
土着から最高の酒づくりを目指す、花の香酒造の哲学「産土」
「産土(うぶすな)」は日本に昔から伝わってきた古い言葉であり、産まれた土地、土地の神々を意味します。花の香酒造にとっての「産土」は、土着の生産風土と、祈りの精神から、最高の酒を醸すための酒づくりの哲学です。
また酒づくりだけでなく「産土」を通して、より多くの人たちに自分たちの「土着」の大切さと価値、その可能性に気づいてもらうことで、酒蔵が地域を過疎化から再生させていく拠点になることも目指しています。
「産土」は、酒づくりだけでなく、モノづくりにとっても大切なことを気づかせてくれます。産土の本質である「土着=ここにしかないもの」。自分たちの産まれた場所を唯一無二のかけがえのない存在とする、この「土着」の考え方は、まず人や酒が産まれた場所、及び同質の環境を共有する周辺地域を含めた地理的領域を指します。花の香酒造の直接的な土着の領域は、熊本県玉名郡和水町と菊池川流域です。(産土領域図参照)
その土着領域に共通する天候、地勢や岩盤層、水脈、自然環境、生態系、土壌微生物のネットワークなどの土地固有の地球生命の循環を背景に、人が農業と酒蔵での微生物の働きを導くことでその土地独自の酒が産み出されます。
「土着」にはもうひとつの領域、歴史を含んだ人々との「祈り・伝統文化の共有」があります。日々、季節に繰り広げられる農と酒造りの営みを、昔から伝わってきた土地固有の農耕儀礼や神事、祭りなど、農業と酒造りに関わる「祈りの心」を社員や土地の皆さんと共有し、支えることで、結果的に自然環境保全や土地固有の文化の伝承につながっていくという、今の日本人が忘れかけている大切な「敬いとつながり」の文化であり、感性です。
産まれた土地で、土着の環境と文化を守りながら「ここにしかない最高の酒づくりを目指す」それが私たちが導き出した「産土」の哲学です。
花の香酒造6代目当主 神田清隆
Ubusuna or indigeneity – the unique character of a piece of land – is at the very heart of sake brewing.
Incorporating both the meaning of the one’s land of birth and the deities of the land, ubusuna as a word and a belief has been passed down to us from ancient times.
For Hananoka Brewery the philosophy of ubusuna draws on an indigenous climate of production and prayer to brew the best sake possible.
In addition to sake brewing, it is also our goal to make people aware of the importance and value of their own indigeneity and potential through ubusuna so that the brewing of sake can become a base for community revitalization.
Ubusuna should recall to us, not only its importance in making sake but for all arts and manufacturing. The essence of ubusuna is the uniqueness of indigeneity, the uniqueness of the land that makes the place of one’s birth irreplaceable, and thus, the uniqueness of those who share that environment.
The immediate ubusuna of Hananoka Sake Brewery is the Kikuchi River basin in Nagomi-machi of Tamana County, Kumamoto Prefecture (see the area map of shared indigeneity).
The unique sake produced in this domain is a process of guiding the workings of microorganisms in agriculture and breweries that share the same cycles of life and land, climate and terrain, the strata of the rocks and flow of water, the microbial networks of the soil – the entire natural environment and ecosystem.
There is another aspect of indigeneity: That is the “shared prayers and traditional culture” that make up the local people and their history.
Throughout the daily and seasonal activities that accompany farming and sake making, Hananoka members and the local people share their prayers through such traditions as farming and Shinto rituals, and festivals that have been transmitted from generation to generation.
This, in turn, has led to the preservation of the natural environment and the continuance of a unique local culture of sensitivity, respect, and bonding that has almost disappeared in modern Japan.
Ubusuna represents the idea that we strive to create the best sake that can only be made here within the preserved indigenous environment and culture of the land in which we were born.
KANDA Kiyotaka, 6th generation head of Hananoka Brewery
「産土」6つの生産風土
私たちは「産土」を「6つの生産風土」として具体化し、自然農法など独自の取り組みを行っています。
「地」和水町の大地と、そこに湧き出る「水」には阿蘇と火砕流岩盤の地下水の、深く結びついた共通の物語があります。米と酒づくりのように、水を同じくするもの同士の相性の良さ「水が合う」ための、水源や水質を守り続ける環境保全活動は、最も重要な取り組みです。
日本酒は農作物により近い存在であり、酒の美味しさは土地の自然の中から導かなくてはならないという考えから、自然農法、酒米全てに土地の米である産土米を使用する取り組みを行っています。在来種「江戸肥後米」の探求から「ubusuna」が誕生しました。
「導(みちびき)」日本酒は人が技術で造るものではなく、自然の力を信じ、導き、醸すものという「技術や人の関わり」に対する独自の取り組みです。多くの選択と可能性を通して、技術がその導きを助け、また時には失敗も大切な導きとなります。
「祈」では農や日本酒造りと共にある農耕儀礼や祭り、神事を通して精神性や価値観の共有を行い、土着の伝統文化や食文化の継承にも積極的に携わっていく活動を続けています。
「還(かえり)」は、私たちの酒蔵は常に「土着」という原点へ還る循環と共にあること、その循環を土地の人々と共に守り絶やさないことをミッションとした取り組みです。
産土の哲学を通して願うことは、世界中のみなさんに日本酒を、私たちを含めた日本各地の土着の環境が産み出した農作物に近い存在として、また先祖から受け継いできた、手仕事による伝統工芸やアートに近いものとして感じていただくことです。
私たちの「産土」の取り組みはまだ始まったばかりです。常に進化中で、まだまだ多くの時間や皆さんの手助けが必要です。「産土」はもう古語ではなく、私たち自身にとって、日本酒全体にとって、またこれからの世界に通用するモノづくりのための大切な「こころ」を与えてくれる生きた言葉なのです。
花の香酒造「産土の地理的領域」
和水町の盆地型の地形は9万年前の「阿蘇-4」と呼ばれる阿蘇山の大噴火の大量の火砕流により形成されています。その地形の成り立ちが、地下水を含む水系や生態系、気候に影響を与え、現在まで続いています。
そのため阿蘇4火砕流の影響と地勢や水脈、地質、天候の共通性の強い順に「産土1次領域:和水町、菊池川流域一帯」「産土2次領域:山鹿、南関、玉名、明海沿岸」「産土4次領域:阿蘇4火砕流に起因する地下水資源を持った熊本市周辺までの熊本平野、」として定義しています。
哲学を「産土」の書に託して
この書の物語の中心にあるのは、和水町(なごみまち)の大地「土」に立つ1本の稲。その稲の苗は土地の気候と水に育まれ、大地に根を張り栄養素やミネラル、水分を米となる籾へと送ります。そしてその根の下には、目に見えない菌類をはじめとした微生物の集まり「ミクロフローラ(micro flora)」の世界が広がっています。「産」はその土の稲から育った米で酒を醸し出す、人のエネルギーと祈りを表現しています。
英文の「ubusuna」は和水町の山々に現れる「龍のような霧」をイメージしたもの。
中塚翠涛(なかつかすいとう)先生に書いていただいた「産土」の書
何万年も続く、生命の営みの延長にある酒づくり
私たちが「産土の大地」と呼ぶ、花の女神の名を持つわずか数ミクロンの微生物ネットワーク層
「ミクロフローラ」で覆われた大地は、様々な働きで土地の生態系に作用し、稲をはじめとした作物や植物、昆虫や動物たちに影響を与えます。硬い岩盤にも長い年月をかけて作用し、土地独特の風景の美しささえも創造します。何万年も前から続いている営みです。その産土の大地から産まれた米に、阿蘇火砕流岩盤から湧き出る水と、人間が育んだ酵母発酵の技術が重なることで、私たちの土地ならではの個性と味わいを持った、花の香酒造の日本酒が生み出されます。
「産土」祈の場のひとつ「体の八神様」
「いぼの神様」「歯の神様」など和水町の緑豊かな自然の中に点在し、土地の人々の風習と共に代々守られてきた、体にまつわる八つの神様(目/耳/歯/手足/いぼ/胃/性/命)が、私たちの「産土」を見守ってくれる祈の場のひとつです。